Side ボクは背中に目なんか付いてないんだ。分かる訳ないだろう。 アンタが何で離れて歩くかなんて。 イライラと、しかし歩くペースはあくまでゆっくりと歩いていく。 雪の降る道はやけに静かで風の音と、自分の雪の踏みしめる音と、もう一つ自分より遅い足音だけがする。 「…きゃ」 訂正。小さな悲鳴と足音の主が滑る音もする。 (4度目) 胸中で呟きながら軽く舌打ちをしたくなる。 別に後ろからついてくる人物が遅いせいや、滑ったことにイラついている訳ではない。 (いつもはすぐ傍をちょろちょろするくせに。いつでも話しかけてくるくせに) 何故今は離れて歩く?何も喋らない? (…どうしてこんなに寒いんだろう) 無邪気に語りかけてくる声が聞こえないから。 すぐ傍にいる筈の少女が今は遠いから。 声を聞くだけで暖かくなる筈も、あの自分より小さな身体が風除けになる訳でもないのにすぐに答えが浮かぶ。 「あ」 今まで4回無視してきた、5度目の音に振り返れば、冷たい雪の中に取り残された少女がいた。 転んだ拍子に雪が入ったのか目を両手で擦っている。 泣いている様な姿を見れば、自分のしたいことは唯一つで少女の下に走っていく。 自分から少女の傍に行って、しゃがみこんで髪に積もった雪をそっと払ってやる。 擦る両手が止まって、真っ直ぐその瞳が自分を映した。 近い距離で、ぼんやりと寒さで色を失った唇が自分を呼ぶ。 「…シンク様?」 「さっさと行くよ、」 いつもよりほんの少しだけ優しく名前を呼んで腕を掴んで立たせてやった。 「手」 「え?」 「手袋、どうしたのさ」 防寒着の長い袖に隠れて気づかなかったが、立ち上がらせるときに見えた手は素手だった。 兄のように慕っている情報部の士官に貰ったという淡い緑色の手袋をしていない。 「あの、雪遊びをしている子供達がいて…手袋がすっかり濡れて寒そうだったので、あげたんです」 「で、アンタはずっと下らない我慢をしてたって訳。仮にも第五師団副長なんだからもう少し考えたら」 彼女があの、自分以外の親しい人物を連想させる手袋をしているのが嫌いだった。 けれど冬の寒気に晒されて白く冷たくなってしまった手を見るのはそれ以上に気分が悪い。 両手を包み込むようにして持って、口元に近づけ息を吹きかける。 幾度もそれを繰り返して指先にほんの少し赤みが戻ってきたのを確認してから、自分の右手にしている手袋を外しての右手に着けてやる。 驚いて慌てて手袋を外そうとするの左手を右手で掴んで一緒に防寒着の右ポケットにいれる。 「ほら行くよ」 一言だけ言葉をかけてゆっくりと一歩を踏み出す。 まだ暖かさの残る右手とまだ冷たいままの左手を繋いでポケットに入れたまま。 「………」 「………」 いつものようにが右隣を歩く。 否、いつもよりゆっくりと、いつもと違って手を繋いで歩く二人は全く言葉を交わさない。 そもそも普段はが話すことから会話になっていくのだが、その彼女が何も喋らない今は会話になる筈がない。 すっかりとポケットの中が暖かくなった頃に、の顔を見てシンクはほとんど全てを理解した。 (ああ、そういうことか) 足元にひたすら集中している真剣な顔。後ろを離れて歩かれている時は気付かなかったその表情を見ただけで、わかった。 離れていた理由、話さない理由。 「アンタがずっと喋らないのは、転ぶからって理由?」 返事をするかと思って声をかければ彼女は首を一度縦に振って答えてきた。 「で、離れてたのは近くにいたらボクも一緒に転ぶからとか考えてた?」 もう一度首肯。 「あのねぇ、ボクも六神将の一人なんだ。そんなヤワな鍛え方はしてないんだけど。ボクを見縊ってる訳」 今度は首を何度も横に振って否定する。否定に必死で注意が足元から逸れたせいかが足を滑らせる。 「…!」 反射的に目を閉じ、転ぶ衝撃に備えようとする少女の身体を危なげなく抱きとめて支える。 そのときポケットの中の繋いだの手に力が入る。支えを求めるように。 恐る恐るといった様子で目を開ける少女の無意識の行動に、自分でも珍しく皮肉ではない笑みがもれた。 「言っただろう。そんなヤワな鍛え方はしてないって。アンタ一人助けるのに労力なんかいらないんだよ」 「それでも私は嫌なんです!シンク様のご迷惑になるのは!」 「自分で歩く限り話すつもりはないってことかい?」 「はい!!」 「そう、それなら」 珍しく意地になる彼女と繋いだ手を離した。するりと同じ温もりがポケットから逃げていく。そのままに背を向ければ途端に分からなくなる。 自分の意志が通って満足しているのか、それとも暖かさが離れたことを少しは寂しがっているのか。 「シンク様?」 分からないままで彼女のすぐ前でしゃがむ。心配したが肩にそっと触れてきた。 「自分で歩かなければ問題ないんだろう」 肩に置かれた手を引っ張ってバランスを崩させ前に倒れこませる。背中にかかった温もりと重みを掬い上げて支えて立ち上がった。 「ボクに迷惑かけたくないんだったらちゃんと掴まりな、じゃないと落ちるよ」 「…は、はい」 突然の出来事に気が動転しているのか、大人しく両腕をシンクの首の前で交差させて身体を安定させた。 「……シンク様」 「何?」 「私、おんぶされてますか?」 「見ての通り、ボクがアンタが転ばないように背負ってあげてるんだよ」 「…………」 「気に食わない?」 あっさりと事実を伝えれば沈黙が返ってきて彼女の気持ちを確認したくなる。 「…いえ、暖かいです」 「そのまんまじゃないか」 「『幸せは飾らずに、そのまま言葉にすれば良い』って本に書いてあったんです」 「ふーん、幸せ、ね」 「シンク様、お喋りいいですか?」 「好きにすれば」 「はい!」 素っ気なく答えれば弾むように答えが返る。 嬉しそうな声がすぐ傍でして首の前で交差している両腕が優しく自分を抱きしめた。 ボクは後ろに目なんか付いてないんだ。分かる訳ないだろう。 離れて歩くアンタが何を思っているかなんて。 だけどすぐ傍にいて、しっかり言葉を、想いを伝えるんだったら気付いてやれる。 ならどうすればいいかなんて簡単なことだろう。 .................................................................................................................................................................................. …うわぁこの人誰?な感じになりました。 ありえないくらい優しいシンクですね。ウチではツンデレだツンデレだと言われております。 BUMP OF CHIKENさんをご存知の方はスノースマイルの歌詞を参考にした部分があるのにお気付きかも知れませんね。 この話書き終わった後にシンクの順位がかなり高くなりました(笑) ところで皆さんのパソコンもシンクを変換すると『辛苦』になるんでしょうか? 森矢の感想→ツンデリャ! ツンデリャ!!!(笑) 二人のお喋りはこんな感じです。 「シンク様、手袋お返ししますね」 シンク 「別に必要ないけど」 「寒いですよね」 シンク 「今手袋着けようとしたらアンタを降ろさなきゃいけないだろ。そっちの方が寒いから御免だね」 「そうですかー」 シンク 「その手袋にあげようか?アンタももう持って無いんだろう」 「いえ、実は今手編みで作ってる最中ですので大丈夫です」 シンク 「本でも見ながらしてる訳?」 「はい。あとツァディさんにも教えていただいてます」 シンク 「この話題却下」 「え?」 補足するとツァディさんってのは私がオリジナルで考えた(名前はもちろんバルシェムシリーズからパクッた)キャラです。神託の盾(オラクル)騎士団情報部の仕官でがお兄さんのように慕ってます。に手袋をプレゼントした人です。シンクはこの人のことはよく知らんですがとりあえず嫌いです。 「重くないですか?」 シンク 「心配になるほどそんなに食べてないだろう」 「あ…」 シンク 「?」 「実はツァディさんやアリエッタ様と一緒にお茶をご馳走になったときにお菓子も一緒に」 シンク 「どうせそんなに頻繁じゃないから問題は」 「あの、ツァディさんは週に3,4回ほどご馳走してくださるんです」 シンク「じゃあ行かなければ問題ないだろう」 |